INTERVIEW

2019.09.10

ものづくりの人々。[グラフィックデザイナー、出版UD研究会発起人 高橋 貴子さん/第4回]

ひとつの物が完成するまでの過程には、さまざまな人がかかわっています。
彼らは日々、何を考え、制作の現場に向き合っているのか。
あらゆる方々へのインタビューを通して、
今の時代において、人々がものづくりで大切にしていることを探ります。

 

高橋貴子

たかはし・たかこ/1984年桑沢デザイン研究所卒業。グラフィックデザイナーとして仕事をする中で、自分の仕事が「目が見えない、見えにくい人には通用しない」ことに気づき、点訳や、ロービジョン(弱視)の人々に向けた本づくりに取り組む。2005年に出版UD研究会を発起。読書のユニバーサルデザインについて、視覚障害者をはじめ、本にアクセスするのが困難な人たちと作り手がともに考える場を設けている。2009年より、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構において「カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット」の選定に参加。

第4回 受け手の声を伝える場。

高橋さんは2005年に出版UD研究会という団体を立ち上げ、これまでに59回のセミナーを開催されるなど、精力的に活動を続けていらっしゃいます。

高橋 出版UD研究会は、本づくりにかかわる仕事をしている人たちと、視覚障害をはじめ本にアクセスするのが困難な人たちが、ともに読書のユニバーサルデザインを考える場です。研究会を立ち上げたきっかけは、視覚障害者の当事者団体が主催する、本に関するイベントをお手伝いさせていただいた時のことで、会場に集まった人たちが、当事者、当事者団体、福祉団体、ボランティアしかいなかったんです。つまり、本をつくる立場の人間が誰もいなかった。それでは誰にも届きません。

高橋 それで、成松一郎さんという、私が拡大図書のボランティアをしていた時にお世話になった方と出版UD研究会を立ち上げました。成松さんは現在、読書工房という出版社で、視覚障害をはじめさまざまな立場の人のための本づくりをされていて、出版UD研究会の座長でもあります。
出版UD研究会では、今は年に数回、障害当事者や、さまざまな形で本づくりに関わる人などをゲストに呼んでセミナーを開催しています。参加はどんな立場の方も大歓迎していますが、前提として、本をつくる立場の人に向けた内容となっています。今年の6月に開催したセミナーでは、書体デザイナーの先生方をゲストに呼び、会場にいたロービジョンの方々と意見を交わすなど、とても有意義な場になりました。研究会の活動を通して、作り手にロービジョンの現状を知ってもらうことが、私の役目であると思っています。

当事者として、作り手として、双方の橋渡しとなる活動をされているのですね。

高橋 ユニバーサルデザインについては、私の分野は視覚に関することです。でも、ロービジョンに配慮したものが、別の障害者にも役立ったという例がたくさんありました。例えば、Windows10に標準搭載されている「UDデジタル教科書体」は、元々ロービジョンの子どもに配慮して設計された書体ですが、ディスレクシア(読字障害)などの発達障害の子どもたちにも大変有効だということが、大学の先生の研究で明らかになっています。このことは、UDデジタル教科書体のリリース直後に開催した2016年9月の出版UD研究会で、テーマに取り上げました。
出版UD研究会でさまざまな方と知り合い、意見を交わす中で、あるテーマがそこで完結せずに他のテーマとつながったり、新たな発見が生まれたりしています。ですから、この活動はまだまだ続けていかなければならないな、と思っています。

↑6月に行われた出版UD研究会のセミナーでは、「文字とユニバーサルデザイン」というテーマで、高橋さんがプレゼンターを務めました。

弊社は企業の広報誌などを制作する会社ですが、クライアントから「ユニバーサルデザインに配慮したものを」とオーダーされることが増えてきました。しかし、すべてを完璧に実現させるのは難しいケースもあるように感じています。

高橋 何でもかんでもユニバーサルデザインに配慮して文字を大きくしなければならない、ということではないと思いますよ。ここもやはり目的と適材適所です。広い視点でいうと、何て書いてあるのか読めなくても、すごくかっこいいビジュアルで人を引き付けるポスターの存在も世の中には必要ですから。
だからこそ、ユニバーサルデザインが必要とされるところでは、情報にちゃんとアクセスできて、正しく読み取れるようにしたいですよね。基本に立ち戻りますが、目的をもち、ターゲットを明確にし、何がいちばん重要なのかを見極めて取り組む。それに尽きると思います。

(終わります)
インタビューは2019年7月5日に行われました。

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第60回出版UD研究会のご案内

出版UD研究会は、本にかかわる仕事をしている人と、多様なニーズをもつ読者が、読書のユニバーサルデザインについて考える会です。高橋さんが発起人となり、2005年から活動を続けています。
9月に開催される第60回の研究会は、現在、参加者を募集中です。どなたでも参加できますので、ぜひ足を運んでみてください。

第60回出版UD研究会
「発達障害のある人が求める情報サポートとは?
―言語聴覚士・発達障害当事者の立場から考える―」

プレゼンター:村上由美さん(言語聴覚士)
主催:出版UD研究会

日時:2019年9月21日(土)14:00~16:30(13:30受付開始)
会場:専修大学神田キャンパス 2号館 2階202教室
定員:100名(予約制・先着順)
参加費:500円
詳しくは出版UD研究会のブログをご覧ください。

点字タイプライター

点字を紙に打ち出すためのタイプライターです。点字は6つの点の組み合わせにより、ひらがな、数字、アルファベット、記号類を表します。写真は高橋さんの点字タイプライターで、点字のタイピングを体験させていただきました。

↑動画です。点字の組み合わせを覚えるのはもちろん大変ですが、1文字ずつ打つこともあり、慣れるまでに相当苦戦するものだと思いました。

目次
・第1回 目が見えない人には通用しない。
・第2回 文字のリズムを読んでいる。
・第3回 ロービジョンの文字の見え方。
・第4回 受け手の声を伝える場。

Photo/國領翔太 Text/諏訪美香