INTERVIEW

2019.06.4

ものづくりの人々。[プリンティングディレクター 冨永 志津さん/第2回]

ひとつの物が完成するまでの過程には、さまざまな人がかかわっています。
彼らは日々、何を考え、制作の現場に向き合っているのか。
あらゆる方々へのインタビューを通して、
今の時代において、人々がものづくりで大切にしていることを探ります。

 

冨永志津

とみなが・しづ/1985年、広島県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。2008年、凸版印刷株式会社入社。大学の課外授業で凸版印刷へ見学に訪れた際にプリンティングディレクター(PD)の仕事を知り、興味を持ったことが入社のきっかけとなった。漫画・イラスト、写真集、女性誌など出版の仕事を中心に、化粧品会社やイベント関連の印刷物などの製造フローを統括する仕事も手がける。PD歴12年。

第2回 しつこく、ちゃんと聞く。

あらためて、プリンティングディレクター(以下PD)の仕事とはどういうものなのでしょうか?

冨永 簡単にいうと、印刷をよりよくするために、紙とインキと印刷方式を組み合わせた提案をする、ということが基本です。

仕事では「ひたすらしゃべる」とおっしゃっていましたが、どういうことですか?

冨永 一方的にセールストークをするということではありません。相手がどんな印刷物に仕上げたいと思っているのかを、言葉のキャッチボールをして見つけ出すという、私なりのスタイルです。

冨永 印刷の仕上げ方に関していうと、その印刷物単体を見た時に美しく完成していること、を目指します。原画があるものに対しては、もちろんその色味を尊重しますが、印刷物はあくまでも複製で本物にはなりません。色数ひとつとっても、絵の具は何色もありますが、印刷は基本的にCMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック)の4色の掛け合わせで行われますから。

そもそもの条件がちがいますね。

冨永 だからこそ、再現する原画の中で何が一番のポイントなのかを見出します。その見極めは、作家さんの描くイメージや、クライアントやデザイナーさんの意図がある中で行うことなので、やっぱり相手との会話が大切ですね。そのうえで、PDとして最適な提案をします。

冨永さんはコミックの仕事もされているそうですが、どんなやり取りがあるのですか?

冨永 コミックの表紙だと、出版社から「書店で並べた時に目立つようにしたい」とオーダーされることが多いですね。通常の4色に蛍光ピンクを足して5色印刷にして、発色よく派手に出すことを提案します。コミックでは定番の手法です。
ただ、何でも派手にすればいいというわけではありません。作家さんの原画のイメージに近づけるということも大切です。

両者の方向性が真逆の時はどうするのですか? 淡いタッチの作家さんもいますよね。

冨永 そういう時は、印刷の方法を複数提案します。仕上げをどちらかに寄せるか、間を取るか。両者と会話を交わしながら、必要に応じてテスト印刷を行い、最適解を探っていきます。

冨永 インキだけでなく、紙によっても印刷物の印象は変わります。例えば本の表紙で、デザイナーさんから「色を鮮やかに」と言われたら、発色がよいコート紙を使うことが多いのですが、そこに「やわらかさも出したい」というオーダーが加わると、そうはいきません。
コート紙では色がはっきりと出すぎて、尖ったような印象になってしまうのです。その場合、発色はやや鈍くなりますが、上質紙を使って穏やかな落ち着いた印象にさせることもあります。

相手の言葉から仕上がりのイメージをつかんで、どうやって印刷に落とすのか。抽象から具体への変換作業を、冨永さんの中で行っているようです。

冨永 「鮮やか」という言葉をひとつとっても、そこに含まれる意味はグラデーションのように多様です。蛍光色を入れて派手にしたいということなのか、それとも赤色を強くしたいということなのかで、印刷方法は異なります。
なので、「こういうことですか?」と、しつこく、ちゃんと聞き出します。自分が納得できるところまで理解していなければ、最終的に現場に意図を伝えられませんから。

粘り強く仕事に向かう冨永さんの姿勢は、どのような経験から育まれたのでしょうか。

冨永 直接的につながっているかはわかりませんが、今でも印象に残っていることがあります。入社2、3年目の頃の話ですが、ある写真集で、なかなか思うように色を出せず困ったことがありました。
テスト刷の色校は2回くらい出していたのですが、新人で経験も浅く、どうしたらいいのかわからないことも多くて。校了が目前に迫り気持ちも焦ってきた時、その写真集のアートディレクターの方から電話で言われたんです。「あきらめてはダメだ」と。

冨永 本当に校了ギリギリだったのですが、営業の方が機転を利かしてくれて、もう一度だけ色校を出せることになりました。夜中にバイク便で色校が家に届き、その場ですぐにチェックして赤字を入れて、再びバイク便で現場へ戻して。結果、何とか完成させることができました。

‥‥納品後、そのアートディレクターからいただいたメールが、今でも心に残っています。「粘り強くやって、勉強して、知識を蓄え、深堀りする。そうして突き詰めていけば、いいPDになれると思うからがんばってほしい」ということが書かれていて。とても励まされました。その時の糧というか、そのメールも含めて、今の私があるんだなと思っています。

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冨永さんが参加する展覧会「グラフィックトライアル2019」が開催中!

7月15日(月・祝)まで、「印刷博物館P&Pギャラリー」で冨永さんがPDとして参加した展覧会「グラフィックトライアル2019」が開催されています。
「グラフィックトライアル」は、グラフィックデザインと印刷表現の関係を深く追求し、新しい表現を模索・獲得するための試みで、第一線で活躍するクリエイターと凸版印刷のPDが協力し合い、さまざまな印刷表現に挑戦しています。
インタビュー中に出てきた冨永さん担当の「見えない印刷」は、実際にブラックライトを当てて体験できます(展示室の明るい部屋でも見ることはできますが、毎週水曜と金曜の14:30にはギャラリーが1分間消灯され、色濃く光る、本来の姿で見ることができます)。ぜひ、足を運んでみてくださいね。

グラフィックトライアル2019
会期:2019年4月13日(土)~7月15日(月・祝)※終了しました。
時間:10:00~18:00
休館日:毎週月曜日(ただし4月29日、5月6日、7月15日は開館)、4月30日(火・祝)、5月7日(火)
場所:印刷博物館P&Pギャラリー
住所:東京都文京区水道1-3-3 トッパン小石川ビル
入場料:無料(印刷博物館本展示場は入場料必要)
詳しくは、ギャラリーのホームページをご覧ください。
https://www.toppan.co.jp/biz/gainfo/graphictrial/2019/#Top

目次
・第1回 見えない印刷の、見えない仕事。 2019.6.3
・第2回 しつこく、ちゃんと聞く。 2019.6.4
・第3回 指名されることの責任とよろこびと。 2019.6.5

Photo/國領翔太 Text/諏訪美香