INTERVIEW

2018.10.12

ものづくりの人々。[紙営業士 西谷 浩太郎さん/第1回]

ひとつの印刷物が完成するまでに、その過程にはさまざまな人がかかわっています。
彼らは日々、どのように考え、制作の現場に向かっているのか。
あらゆる職種の方々へのインタビューを通して、
今の時代において、人々がものづくりで大切にしていることを探ります。
一人目に登場していただいたのは、平和紙業の紙営業士・西谷浩太郎さん。
紙加工への情熱が生まれたきっかけや、仕事のこだわりなどを、じっくりと語っていただきました。

第1回 実は、紙が好きなわけではないんです。

西谷さんは平和紙業という紙の専門商社で販売推進のお仕事をされていて、いわゆる紙マニアな面をお持ちで?

西谷:いえ。実は、紙が好きなわけではないんです。

えっ、そうなのですか?

西谷:もちろん嫌いではありませんが、ただすごい紙を愛しているかというと、そうではないです。今から15年前、入社4年目で今の部署に配属されて、企業のデザイン部やデザイナーさんたちに紙のプロモーションをする担当になりました。入社したてのときも、そのときも、紙やデザインについて何か特別な情熱があったということもなくて。デザインについては知識もまったくありませんでした。

御社には紙が好き、デザインが好きという人が多く集まっているのだとばかり思っていましたが‥‥。

西谷:いや、そうではないですよ。むしろ営業として紙は売るものなので。だから、紙が好きかと聞かれたら、営業なんかは答えに困るでしょうね。なかには紙がどうしようもなく好き、という人もいると思いますが、私はそういう感情はないですね。

ただ‥‥ひとつ結構執着してしまうことがあって。紙の加工となった瞬間に。

加工というと紙のプロモーションにかかわってくるように思いますが、西谷さんは普段、どんなお仕事をされているのでしょうか。

西谷:今日一日の仕事が凝縮されていると思います。まず1件目は、蔵前にある紙加工会社さんに行ってきました。お箸の袋を作っている会社です。お箸って口に触れるものだから、食品衛生法上、箸袋の材料となる紙にも規制があります。例えば、名刺の紙で作ったらアウトなんですね。

そうなんですか。知りませんでした。

西谷:その会社の創業は和紙販売らしいのですが、和紙は本来、蛍光染料や重金属を含みませんから、箸袋を作ることからはじまって、今は紙ナプキンとかコースターなどにも印刷や加工をするのが得意になっているみたいです。

なるほど。

西谷:2件目は、お菓子のパッケージを作っている会社の、デザイン部の方々と会ってきました。今日このあとにももう1件、デザイナーさんに会う約束があります。あるものを作りたいから相談に乗ってほしいと言われていて。

つまり、デザイナーさんの相談役なのですね。

西谷:そうですね。加工会社へは相談に行って、デザイナーさんからは相談を受ける。

すべては紙を使ってもらうために

デザイナーさんからはどのような相談を受けるのですか?

西谷:端的にいうと、「これ、紙で作りたい」。例えば(名刺ケースを手に取って)、「これ、紙で作れますか?」なんて聞かれたりします。しかも、「開け口がパカッとなるのは絶対です」なんて無茶ぶりがくる(笑)。まずは駄目元のスタンスで聞いてきますね。

それに対して、紙加工会社さんに行って相談したり、自分で考えたりして、何か実現できる方法はないか探っていきます。はなから「それは無理です」ということはしません。

はじめに、紙が好きなわけではないとおっしゃっていましたが、紙単体ではなく、西谷さんは紙で何かを作りあげていくことに、紙の魅力や仕事のやりがいを持たれているように感じます。

西谷:そうですね。‥‥そうなったきっかけというものもあって。昔は、紙を提案さえしていればよかったんです。「この紙に似たようなものを提案してください」と言われて、「それでしたらこれはどうでしょう」と仕事をしていればオッケーでした。

しかし、この10年くらいでしょうか。紙の使用量がかなり落ちてきました。2010年は電子書籍元年と呼ばれていて、その後Kindleが日本でも発売されました。いよいよ紙の本がなくなるんじゃないかと言われていました。それに、3.11の震災を境にメディアのあり方も変わってきたように思います。あのあたりから、紙媒体に費用をかけない傾向になってきました。

ええ。何となくですが、世の中全体として紙の使用は減ってきているように感じますし、制作会社にいる身としても、紙媒体は節約傾向にあるように思います。

西谷:ちなみに紙の種類でみると、段ボールの使用量は増えていて、ティッシュペーパーやトイレットペーパーなどの衛生紙は横ばいからやや増加。それに対して印刷用紙の使用量は、年々、徐々に減っています。

それは営業で回っていて肌でも感じました。「何かあったら相談くださいね。紙、いつでも提案しますから」と言っていくら回っても、レスポンスがほとんどないような状況でした。

そんなに様子が変わってしまったのですか‥‥。

西谷:そのようななかで、加工で新しくできた紙を持って行って、こんなものも作れるんですよと見せると、相手が何かちょっと相談してみようかなという空気になることに気がつきました。だからあの当時、加工というのは紙を使ってもらうための、あの手この手の手段だったんです。紙が好きとかどうとかよりもまず先に、そうせざるを得なかった。

紙を取り巻く状況が変わったことが、西谷さんを変えていった。

西谷:そうですね。そんなことをくりかえして、ものを作るお手伝いをしてきたからでしょうか。加工に詳しい人という印象を持ってもらえるようになったみたいで、デザイナーさんから相談される仕事がだんだん増えてきました。

(第2回へ続く)

平和紙業株式会社
1946年創立。ファンシーペーパーを中心に取り扱う紙の専門商社。 特殊紙、高級紙、技術紙をはじめとする各種紙素材の開発、販売、輸出入のほか、紙を素材とする新商品開発と商品化を行う。
http://www.heiwapaper.co.jp/